第6回川柳文学賞受賞作品

正賞 『第三の男』阪本高士著
準賞 『イヤリング』山本希久子著

2013年6月8日、青森県・青森グランドホテルにて授賞式が行なわれ、平山繁夫選考委員をはじめ、多数の川柳家にお集まりいただき、賞状、盾と副賞10万円が、受賞された阪本高士氏に手渡されました。また、今回より導入された準賞を受賞された山本希久子氏には賞状、盾、副賞3万円が手渡されました。
第6回川柳文学賞は平成24年に発刊された句集のうち、申請のあった15冊を選考委員(久保田半蔵門・平山繁夫・雫石隆子・林えり子(作家))4名(敬称略)が選考しました。

総評 選考委員:平山繁夫

 全日本川柳協会主催の第六回川柳文学賞の選考が終わった。今回より準賞が導入され、未来への展望が整ったと言えるだろう。
 正賞は阪本高士氏の『第三の男』(新葉館出版刊)、準賞は山本希久子氏の『イヤリング』(美研アート刊)であった。
 『第三の男』を一位に推した久保田半蔵門氏は「現代川柳はイマジネーション[imagination]の時代で、その感性と進取性を見出す」と言い、三位に推した平山は「表現方法の巧緻と類推的な暗示の方法論」を指摘している。
 準賞の『イヤリング』を二位に推した平山は「生活の意味を日常から掬い上げ、観念世界を拒否、感動そのものへ連結させた」と述べた。三位に推した雫石隆子氏は「日常を出ないものであったが、平均的な作品で安心感がある」と評価した。今回の作品は視覚的な表現を避け、人間の永遠性、高貴性を追求する高次な知性的空間が存在した。それは人間の全人格を表現した真実像と言えるかもしれない。

受賞された阪本高士さん(左側)と山本希久子さん(右側)
受賞された阪本高士さん(左側)
と山本希久子さん(右側)

 次に惜しくも善戦した候補作品を挙げる。
 淡路 獏眠『鬱川柳』
 藤田 峰石『旅路六十年』
 田村ひろ子『夢のしっぽ』
 玉井たけし『片時雨』

 共選は各選者の一致は困難である。文芸は個性と感情の堆積を核とするものであるからであろう。
 石原慎太郎の芥川賞選考委員の辞意表明は、老いと若さの思想断裂、石川啄木の処女詩集『あこがれ』について三木露風の激賞に対し、日夏耿之介の反論に見るように、評価についての差異は、その難解さを表明している。

主な掲載作品『第三の男』

  • 一冊の漫画と男街を出る
  • 病院をにぎやかに出る秋時間
  • コスモスの首をはねてる待ちぼうけ
  • 村の鍛冶屋で戦争は十字架になった
  • ふるさとを二つ持ってるペンネーム
  • 弟がキラキラ横穴掘っている
  • あじさいの淋しい彩と和解する
  • 素うどんを二つ夜逃げの話など
  • 帰ってきた谺に紐がついている
  • ダンボールのお家に住んでいるサンタ
  • 青いバラ一輪王様に背く
  • 暑いのでどっちに曲がろうかきゅうり
  • 夏まつり何かなくしてきたようだ
  • ビロードだった頃を想っている炎
  • 無駄なこと大好き猫を抱いている
  • 蝉しぐれ間違い電話二度かかる
  • 美しい男と法に触れたがる
  • 縁日の金魚と三年目を生きる
  • 一年ぶりに本が帰ってきた春日
  • いい話壊れて花火見ています
  • 神かくしの話が落ちている岬
  • 地下鉄の終点に咲く彼岸花
  • ゴミの島の向こうにアメリカが見える
  • 夏の絵を食べてしまったキリギリス
  • 友だちの影を時々踏んでいる
  • いろいろと都合があって黒になる
  • 七月の雲を掴んでいるクレーン
  • 大丈夫ボク等は途中下車をした
  • 大勢の前で短所を褒められる
  • 折鶴が千羽いくさに参加する
第三の男
平成24年3月25日発行
四六判ソフトカバー 236頁
新葉館出版
千二百円(税別)

主な掲載作品『イヤリング』

  • 妻でない母でない日のイヤリング
  • さくら咲く何も競わず羨まず
  • 友達を数えて森へ来てしまう
  • わたくしのカルテの冬が終らない
  • ひと言が多くてひと言が足りぬ
  • がむしゃらに生きて加齢の波に濡れ
  • 細い雨みんな味方でみんな敵
  • 雑念と雑用わたしに付きまとう
  • 笑って笑って私の毒を吐きだそう
  • 雨やどりほどの仮の世生きている
  • 私の天 洗濯物がひるがえる
  • 育ったら視野から消えた子の翼
  • あきらめることばかりなり大根煮る
  • すりばちの底に家族という絆
  • 童心にかえると見える花の彩
  • 絵の中の母がだんだん小さくなり
  • 傷だらけの原発黒い息を吐く
  • 泣く人がいる空はこんなに青いのに
  • 現役のままで桜は散りました
  • 政治不信へ遠吠えをするばかり
  • 桃に傷ゆっくり地球温暖化
  • 骨拾う箸には詫びることばかり
  • とりあえず磨いておこう明日の靴
  • 好きな本と好きな時間に好きな椅子
  • 残照のすてきな時間朱に染まる
  • 夏の出口でふっと昔の風に会う
  • 踏まないで下さい袋出たばかり
  • 底冷えの街で段差にけつまずく
  • 積乱雲に囲まれながら生きている
  • てのひらののぞみこぼさぬよう走る
イヤリング
平成24年5月3日発行
B6判ハードカバー 203頁
美研アート