第9回川柳文学賞受賞作品

正 賞 『葉桜の坂』山崎夫美子著
準 賞 『大倉山発』山本喜太郎著

2016年6月25日、愛媛県・大和屋本店にて授賞式が行なわれ、平山繁夫選考委員をはじめ、多数の川柳家にお集まりいただき、賞状、盾と副賞10万円が、受賞された山崎夫美子氏に手渡されました。また、準賞を受賞された山本喜太郎氏には賞状、盾、副賞3万円が手渡されました。 第9回川柳文学賞は平成27年に発刊された句集のうち、申請のあった18冊を選考委員(久保田半蔵門・平山繁夫・雫石隆子・佐藤美文・林えり子(作家))5名(敬称略)が選考しました。

総評 選考委員:平山繁夫

受賞された山崎夫美子さんと山本喜太郎さん

受賞された山崎夫美子さんと山本喜太郎さん

第9回川柳文学賞選考結果は次の通り決定した。選考委員は
 久保田半蔵門、平山繁夫、雫石隆子
 佐藤美文(新任)、林えりこ(作家)文面参加
 本田智彦(オブザーバー)

    正 賞 『葉桜の坂』 山崎夫美子さん(奈 良)
    準 賞 『大倉山発』 山本喜太郎さん(神奈川)

 葉桜の坂について久保田委員は、郷愁の中で奈良を巧みに作品に取り入れる作家だ。古都奈良を背景に歴史を現代川柳の手法で詠んでおられる。多少言い回しに固さが残る。現代川柳を代表する作家だと思う。
 同じく雫石委員は、一読して作品の安定感を思う。女性作家によく見る嫋々たる女々しさはない。大和の全てに目を凝らし、あくまでテーマは人事である。作家としての姿勢、立ち位置に少しも揺らぎはない。作品、句集の風体も『川柳文学賞』に何一つ欠けるものがない。
 同じく佐藤委員は、奈良は歴史もあり、自然が豊かである。何処を切りとっても理解してもらえるし、共感も得られる土地柄である。作者の故郷であるようである。だから独り善がりにならず、表現もベテランらしく安定している。意識したテーマでなかったかも知れぬが、奈良のイメージを膨らませた。
 同じく平山は従来の説明的原形保存の意識であるよりも暗示的、飛躍的な表白によって今日の新しい時代層を満足させ得る方法を作者は模索している。この象徴主義的な朦朧性が意識の場になることにより〈晦渋〉と伴走となる。作者山崎氏がこの詩的思考を如何に成熟させ得るかそれが作家生命への階である。
 大倉山発について、林えり子委員は、久しぶりに「川柳」の魅力を思い知った作品です。川柳のなじみのない人がふいに「赤い羽根売り子の声が背にささり」の十七文字が浮かび、そこが入口で句集上梓できるまでなるとは……。句は社会観と詩性の合体がある。

主な掲載作品『葉桜の坂』

葉桜の坂

平成27年2月23日発行
A5版ソフトカバー 140頁
新葉館出版
定価千四百円(税別)

・野に春の言葉溢れて手をつなぐ   ・また今日も西日を許す磨崖仏
・万葉の恋歌巡る野末まで      ・道祖神 ここにも村があった空
・葉桜の坂なら君達の手を離す    ・初恋のときめき阿修羅に辿りつく
・桜散らせて一気に逃げる面童子   ・角伐りの鹿放たれて揺らぐ天
・托鉢の椀の深さを知るさくら    ・仏画師に退屈すぎる昼の雨
・大和格子の外は仏の息遣い     ・遠景に塔ある暮らし幾千年
・苦悶とも笑みとも思う日の仏    ・光背のゆがみに黙す寒椿
・うっすらと海を憶えている仏頭   ・内乱の果ての冠もろく抱く
・コスモスと笑い転げて 風の使者  ・還るべき土なく遺跡ぬくい風
・土中にて鈍く光るか古代鏡     ・回廊の青葉にまぎれ変幻童子
・蝶追えば蝶の柩となる帽子     ・淋しさの重さで落ちる椿なら
・鎮魂の雪に触れたき修羅と往く   ・花嫁が来るらし里につらつら椿
・たんぽぽの芯が見たくて帰れない  ・この距離で牡鹿と出会うつつがなく
・過去帳の誤字も仏のてのひらに   ・風鐸を揺らし続けて奈良に行き
・この国の傾くさまを大仏と     ・いのち沸々 鐘楼までの坂に棲む

主な掲載作品『大倉山発』

大倉山発

平成27年7月4日発行
四六判ソフトカラーカバー 192頁
新葉館出版
定価九百円(税別)

・鉄錆が臭うと人が降る気配     ・針箱に見る母さんの小宇宙
・アニメなら描ける男の黙示録    ・豆を抱く莢の形は母に似る
・抜け道も至るローマと書いてある  ・残価ゼロ捨てても惜しくない鎧
・肋骨を一本冷やす野菜室      ・叙勲には縁なし今日も一万歩
・胴切りのフランスパンの骨密度   ・症候群エスカレーターでも歩き
・絵手紙を撫でてスマホの街にする  ・ネクタイで括れば棄てる本が哭く
・父の忌を不意に時計が動き出し   ・カメラだけ立派でチャンス追えぬ歳
・この人も金銭にきれいな白い骨   ・金婚も活断層の上に座し
・贈られた塩にレシピがついてくる  ・カーナビに散骨場所も入れておく
・ハイタッチ許す姿で弥陀おわす   ・育児書を五冊も読んで幼な妻
・モダンジャズ流れ仏像目を覚ます  ・首なしの地蔵に上げる赤まんま
・さつま芋蔓を辿れば敗戦史     ・お湯掛けて三分待って動く脳
・骨壺を振れば戦禍の海の音     ・躓いた数もかぞえて歩数計
・砂時計つきぬ戦死の父の砂     ・冬靴に桜を見せてから仕舞い
・御楯だけ生して五尺に足りぬ母   ・耳当てて古木に貰う生きる音

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