第10回川柳文学賞受賞作品

正 賞 『飯茶碗』梅崎流青著
準 賞 『残り火』北田惟圭著

2017年6月18日、北海道・京王プラザホテル札幌にて授賞式が行なわれ、平山繁夫選考委員をはじめ、多数の川柳家にお集まりいただき、賞状、盾と副賞10万円が、受賞された梅崎流青氏に手渡されました。また、準賞を受賞された北田惟圭氏には賞状、盾、副賞3万円が手渡されました。
第10回川柳文学賞は平成28年に発刊された句集のうち、申請のあった27冊を選考委員(久保田半蔵門・平山繁夫・雫石隆子・佐藤美文・林えり子(作家))5名(敬称略)が選考しました。

総評 選考委員:平山繁夫

受賞された梅崎流青さん

受賞された梅崎流青さん

近年川柳文学賞応募作品は難解になったといわれる。それは短詩文芸の宿命で、その表現は説明的、叙述的であるより、暗示的飛躍的にならざるをえないこと、その上構成する言葉に複雑な意味の重圧を課せられているからである。即ち革新的な抒情の成熟を求めている。
 第10回川柳文学賞選考結果は次の通り決定した。選考委員は昨年と同じく久保田半蔵門、平山繁夫、雫石隆子、佐藤美文、林えりこ(文面参加)、本田智彦(オブザーバー)

  正 賞 『飯茶碗』梅崎流青さん(福岡)
  準 賞 『残り火』北田惟圭さん(大阪)
  賞 外 『アレグロの朝』干野秀哉さん(北海道)

正賞 『飯茶碗』
 一位推薦者 平山 雫石 佐藤各委員
   評  平山繁夫
 人が焦燥と混迷に囚われたとき、内に必然的に孤独と寂寥の状態が生じる。同時に現実に対する批判的精神は、自己を律する厳しさと自己の真実を尽し、生きようとする作者の意識の成熟がある。
 自らの真実に生きるとは、人間性を抑圧するものへの怒りである。言葉は平明であるが、作品に張りと重さがある。
   評  雫石委員
 第一位に推すのは、梅崎流青氏の「飯茶碗」である。第一句集から二十年の歳月を川柳とがっぷり四つに組み、その成果としての句集であろう。中に幾つかの小論が挿入されており、氏の川柳観を垣間見ることができる。川柳作品は抒情的で詩の言葉で紡がれているが、小難しくアブストラクトではない、この辺が現代川柳の主流であろう、と思う。
   評  佐藤委員
 柳歴三十八年のベテランである。そして二冊目の句集である。所属も川柳葦群とある。とっつきにくい作品が多いが、何度も読み返して理解すると、なるほど、味わい深い作品であることに気付く。27冊のトップに据えたのはボリュームも説得力になった。
 二位推薦者 久保田半蔵門
   評  久保田半蔵門
 A5判ハードカバーの上製本である。川柳句集としてどこへ出しても恥かしくない装丁で出来上がっている。句の方は口語調・文語調ありで定型は守っている。表現方法も確かなものがあり格調も高い。章ごとの小文に彼の才を見る。句はやや才に溺れるところもあり、それが気にかかる。いずれにしても句集としては堂々立派なものがある。

準賞 『残り火』
 一位推薦者 林 委員
 戦火、震災、原発とのおぞましい現実を直視、記録を「川柳に託す」姿勢で作句なさっているが、詩心を失わずにそれが行間で窺えることで評価します。「疑いは白い根っ子の曼珠沙華」「シンプルに生きよと白い虹が出る」「白い風が吹く白いプルトニウム」「コスモスの白を味方に秋の空」とこの作者は白を好み、自身の色を見つけていることも一つの作家道です。「少子化にしたり顔するブロッコリー」のウィットもいい。(以下略)

各選者が選んだ三位までの句集
  久保田  玉響   飯茶碗     凌霄花
  平山   飯茶碗  アレグロの朝  凌霄花
  雫石   飯茶碗  残り火     アレグロの朝
  佐藤   飯茶碗  葦の言ノ葉   前へ
  林    残り火  アレグロの朝  心のあしあと

主な掲載作品『飯茶碗』

飯茶碗

平成28年4月14日発行
A5版ハードカバー・228頁
大同印刷㈱
定価二千円(送料310円)

・貧しさが良かった頃の煮凝りよ    ・父の本燃やして暖をとっている
・副葬の本を探しているのだが     ・われ知らぬ妻が花屋の前に立つ
・蟹赤く茹でてこの世に憂いあり    ・動かねば火にも当てよう竹の蛇
・菜の花が咲いていたので降りた駅   ・飯茶碗人に貧しい手が二本
・身の深部冬涛どうとどうと果つ    ・水餅の水濁らせて生きている
・体温の残るブランコみな独り     ・人眠るみんな卵の形して
・雪しんしん梁の重さに耐えるべし   ・干し魚の眼からぽとぽと落ちる海
・ろうそくの芯を伝ってくる縁     ・汽車軋む貧しき村を縫えばなお
・死刑まだ続き予鈴が低く鳴る     ・孤独とはわが息吐いて吸う真昼
・無防備な水飲む時の喉仏       ・男座す便器冷たいものと知れ
・いちにちを牛になりたく草に寝る   ・錠剤の白い清潔感こそ恐れ
・ならば問う葦より強い人ありや    ・煌々と眠らぬ街のこれも貧
・一年の重さリンゴが手に重い     ・人の世のからくり石は水に浮く
・冬の斧打ち込む弛緩した街に     ・生涯を掛ける曲がったままの釘
・交を断つ手紙は飯粒で封ず      ・これでよかったこれでよかった棺の釘

主な掲載作品『残り火』

残り火

平成28年3月11日発行
A5判変形ソフトカバー・126頁
私家本(非売品)

・蝶が舞う新月でしたあの日です    ・一本の柱だったか炉心だったか
・疑いは白い根っ子の曼珠沙華     ・蟹のいた小島の磯や再稼働
・風船に詰める四角な子守唄      ・2号炉の抗がん剤はないのです
・炉心溶解 プロメテウス蘇生する   ・阿修羅には凍てた吐息の布告状
・咲き初めにひらひらひらと舞う核種  ・湧く雲の忘れものあり夏が行く
・ふわふわの明日がそこにありました  ・何気なく置かれたものが化けている
・良くご存知ですね犠牲のシステム   ・ウランがはしゃぐ君のポケット
・羅漢の首がキクキクと鳴る月夜    ・首塚の位置がずれてる 再稼働
・核のごみ母なる海に吐き捨てる    ・銃を手にしたら外せなくなる的
・方舟に積まれていたのは核のごみ   ・輪唱の途中で重くなる廃炉
・姉弟待つピアノは堪えて朽ちるまで  ・フクシマまだ見つからぬ象の足
・すべて木が騙されていて深みどり   ・シュート回転しないピストルの弾
・花が咲く核種を吸って喜びの彩    ・ゆっくりと転がり出した鉄砲玉
・幾万年の覚悟あるかと盧遮那仏    ・蟻の穴から戦争が洩れていく
・被曝に嘘はないムラサキツユクサ   ・黄蝶舞う一基一基と急き立てて

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