第14回川柳文学賞受賞作品

正 賞 『十年の軌跡 東日本大震災を詠む』織田順子著
準 賞 『せつえい』 森山文切著

受賞された織田順子さん

受賞された織田順子さん

 第14回川柳文学賞は令和二年に発行された句集のうち、申請のあった22冊を選考委員(雫石隆子・佐藤美文・新家完司・梅崎流青・荒川佳洋)の5名が選考しました。
 第一回から選考委員を務められた、故林えり子氏の後任として、新たに作家の荒川佳洋氏を選考委員にお迎えしての選考となりました。
 今年も前回と同様に、新型コロナ感染拡大防止に対応し、これまで五月に開催されていた、理事会後の選考委員会を持たず、リモート選考となりました。日川協事務局からの選考結果の報告を受け、集計通りの受賞と致しました。
 五月二十五日、あらためて各委員へ電話確認を行い受賞決定の運びとなりました。





総評 選考委員長:雫石隆子

受賞された森山文切さん

受賞された森山文切さん

 今年の川柳文学賞の申請は22冊。コロナ禍ながら前回より多い応募数である。第12回まで選考委員が一堂に会して選考会を開催していたものが今年も出来ず、前年と同じく各委員の選考結果を集計したもので決定。今回のように点数が接近したりする時は、じっくりと選考を話し合う場の必要を思う。東日本大震災から十年の節目の年ではあるが、しばらく震災川柳が多く、リアルな体験が各大会の高点句になっている。また昨今は、新型コロナをモチーフにする句が多く、千年や百年ぶりの災害で「想い」も強いのは分かるがマンネリ感はあり、特別賞を考えたいと思う。
 正賞一位推薦2名、三位推薦1名の「十年の軌跡 東日本大震災を詠む」織田順子著は、福島在住で東日本大震災の被災者。未曾有の体験が書かせる作品に説得力があり、全日本川柳大会などの上位入賞のご常連で実力作家として定評のある作家である。
 準賞は「せつえい」森山文切著。二位推薦2名、三位推薦1名である。特長はWebとWeb外の二章からなる。川柳人口の多くはアナログ世代なので、作品も作者も知らなかったが、これからの川柳の方向性を考えたいと思う。
 次点の「野良着」石田一郎著は二位推薦2名。ベテラン作家のご健闘を称えたい。

正賞 「十年の軌跡 東日本大震災を詠む」織田順子(福島)
   評(一位推薦)  佐藤 美文
 今年は東日本大震災から丁度10年目に当たる。テレビでも新聞でも取り上げていた。それだけに余計印象に残ったのかも知れないが、でも誰かが書かなければならなかった事でもあると思う。内容も期待に応えてくれるものであった。一句挙げるとすれば「復興へ小さな声を束にする」を挙げたい。
   評(一位推薦)  新家完司
 最初の章「発災」から終章の「明日へ」まで、ブレることなく総て東日本大震災に関わる事象を詠っている。「心までえぐりさらった大津波」「子どもの日海に名を呼ぶ母が居る」等々。悲惨な状況から目を逸らさず克明に述べようとする真摯な姿勢に感銘した。また「原発に触れずにおれぬ立ち話」「ふる里に根っこ残して街暮らし」等、自らの心情も率直に述べていて説得力がある。

準賞 「せつえい」森山文切(沖縄)
   評(二位推薦)  梅崎 流青
 「内側の方が汚れているガラス」風や雨に打たれる外側よりも内側が汚れているガラスとは。この句は発見の妙を述べた作品ではない。内側にひしめく人間たちが雨風よりも、との意味だ。浄土に対する穢土。人間たちの汚れたこの世である。「じいさんのナタ昭和をぶった斬る」あの大戦の防波堤となったオキナワは今も昭和のまま。ひっきりなしに離着陸を繰り返す軍用機の轟音、そしてキャタピラーの回る音。作者は沖縄に生活の拠点を置く。じいさんのヤマトンチューを見る目は厳しい。「刑務所が歩いていける距離にある」に身震いした。刑務所の門は思ったより低く広い。ふっと手を伸ばせば包丁がいつでもそこにある。作者はWeb句会を中心に活動しているという。紙の上の活字しか知らぬ昭和人に変わって川柳の輪を広げて欲しい。
   評(二位推薦)  荒川佳洋
 川柳が詩である以上、イメージの跳躍に、他人の理解を困難にするものがあって当然だが、森山さんの句がわりあい平易なのは対象を咀嚼しているからだろう。「はんぺんかたまごかすじか退職か」「雇止めされても着火剤のまま」など感銘した。Web川柳という試みも川柳の可能性をひらく果敢な実験である。気になったのは「でした」「です」「でしょうか」「いいですか」など口語体で下五を結ぶ用法。効果的に使われる場合はべつだが。他の作家の句集にも多くみられ川柳ではひとつの鋳型のようだが、俳句ではあまり用いられない。安易な用法で、逆に読み手の理解を閉ざすような気がする。凭れ掛かるような甘えた感じも良くない。この用法は、句の自立性を損ないはしないか。

主な掲載作品『音のない時間』

十年の軌跡 東日本大震災を詠む

令和2年12月23日発行
四六版ソフトカバー・124頁
日之出印刷株式会社
定価1000円

・大地震生者と死者の紙一重      ・土に触れ土の声聞く太い指
・被災地を無精に包む春の雪      ・新しい故郷に馴染む被災の子
・こどもの日海に名を呼ぶ母が居る   ・会心の米風評に泣いている
・賠償で生きる誇りは賄えぬ      ・被災者に元気を貰うボランティア
・風下で原発の影逃げ惑う       ・被災地を去るも去らぬも要る覚悟
・五歩引きの被災者証でレジを抜け   ・被災した友の住所がまた変わり
・日常へ戻る一歩の美容院       ・傷口に触れぬ優しい無関心
・直売所安全を売る声を張り      ・原発のニュースかさぶたまた剥がす
・原発に触れずにおれぬ立ち話     ・青写真復興庁は絵が上手
・沖縄が呻くと福島も疼き       ・ふる里に根っこ残して街暮らし
・この先が絆だけでは見えて来ず    ・この町に希望見つける子の姿
・線量の壁新しい格差生み       ・帰還者が増えて賑わうゴミ置き場
・平凡をこんな愛しむ三月忌      ・騙し絵の中で原発息潜め
・復興へ小さな声を束にする      ・復興の一歩覚悟の店を開け
・野馬追へ被災の馬もよみがえる    ・震災を知る子二十歳の春に起つ

主な掲載作品『せつえい』

せつえい

令和2年3月29日発行
A5判ペーパーバック・108頁
毎週Web句会

・沖縄にあるしりとりの「ん」の続き  ・混浴に少年がいた十二月
・花がない方が自然である花瓶     ・一斉に開く告別式の傘
・内側の方が汚れているガラス     ・じいさんの遺影は笑うのが苦手
・プルタブを引いたら見えるのが心   ・犯罪の臭いはしない屠殺場
・じいさんのナタで昭和をぶった斬る  ・ツナ缶の中は幾何学模様
・殻破る度に小さくなっていく     ・米軍のフェンス内にも咲くデイゴ
・サバ缶を開けても戻らない記憶    ・干からびたヤモリ復活したイエス
・トイレットペーパーと目が合いました ・へいわってなあに何にもないことよ
・はんぺんかたまごかすじか退職か   ・刑務所が歩いて行ける距離にある
・行きずりの女とカステラの話     ・猛暑日の寺に如来像の色香
・愛情のかたちゴリラの胸の傷     ・マカロンを食わねばならぬほど荒れる
・原爆忌も終戦の日も夏休み      ・罅割れた甕だが翼ならあるぞ
・本能に従い黙る縫いぐるみ      ・サイコロを洗い終わった神託所
・仏壇にグルテンフリーナポリタン   ・寝過ごしたようです空が新しい
・平成の終わりシンナーに火は着くか  ・へらへらと私は不特定多数

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